ポークのウェルダンで物語な日々

主に映画、ときどき小説、漫画、ゲームなどの感想や紹介を書いています。

『超高速!参勤交代』感想|江戸時代における武士の戦いとはマラソンであった

初めましての方は初めまして、そうでない方は、またお会いできて嬉しゅうございます。豚肉が大好きなポークと申します。

本日も徒然なるままに書き記した、映画感想日記という黒歴史を落っことしたいと思います。お付き合いいただけますとこれ幸い。わたくし小躍りしてしまうことでしょう。

 

さて早速、今回紹介させていただく映画はこちら、ドン

『超高速!参勤交代』

こちらは2014年公開の映画でございます。2016年には続編の『超高速!参勤交代 リターンズ』も公開されていますので、記憶に新しいなんて方も多いのではないでしょうか。今更ながら鑑賞いたしまして、大変楽しい時間を過ごさせていただきました。

 

さて『超高速!参勤交代』、“超高速”という現代的なものを感じさせる言葉に続く、”参勤交代”。

みなさまは参勤交代をご存知でしょうか?義務教育を受けていればきっと分かるはず。さあ15文字以内で説明してください、せーの!

 

一年毎に江戸に行列で行くやつ〜(きっかり15文字)

 

……何ですかその説明は。もっと詳しく書いていただかないとさっぱり分かりませんよ。

え?15文字は無茶だって?そうでしょう、なんたって無茶を言いましたからね。

 

と、茶番はさておきしかし。多くの方は今書いたようなフワッとした内容しか覚えていないのではないでしょうか。私はそうでした、はい。

ならば説明してしんぜましょう、参勤交代とは。

 

※ここからは長ったらしい参勤交代の説明が始まります。知っとるわそんなもんボケェ!な方はどうぞ次章までスクロールお願いいたします。

今は昔の寛永12年すなわち1636年、三代将軍・徳川家光によって定められた制度のことなり。その内容は、全国津々浦々にて領地を治める大名は、一年自分の藩で暮らした後、次の一年は江戸で暮らさなければならない、つまり一年おきに国元と江戸を行き来しなければならないという、大変面倒なものでございました。「参勤」は江戸へ向かうことを、「交代」は自分の国元へ帰ることを意味します。

しかもあくどいことに、幕府は参勤交代を必ずさせるために大名の正妻と嫡男を人質として江戸に住まわせていました。

しかしなぜそんな面倒なことをしなければならなかったのか。大名への嫌がらせか、かの有名な徳川家光公は気がふれておられたのか。いえいえそんなことはありません。もちろんこの制度にもれっきとした意味がございました。

幕府には、この制度によって大名の力を抑えるという目的があったのです。

新幹線も飛行機もなかったこの時代、各地の大名が江戸へ向かう手段は当然徒歩でございました。今の北海道南西部にあたる松前藩の大名も、鹿児島県こと薩摩藩の大名も、みんな山越え谷越え海を越えテクテク歩いて江戸を目指したのです。恐ろしいことです。

当然その旅路は何十日、何か月もかかります。そう、そこが幕府の狙いだったのです。
大名行列なんて言葉があるように、大名の参勤交代ご一行はそれはそれは大人数でございました。道中の食費、宿泊費その他もろもろの出費は計り知れないものです。これが毎年行われたというのですから、当時の大名はさぞ頭を抱えたことでしょう。

悲しきかな、何をするにもまずはカネです。たとえ幕府に不満を持ち、敵は江戸城にありと謀反を企てたところで、資金がなければどうにもなりません。江戸と藩とを行き来する生活では、同志との連絡も取りにくいでしょうしね。泣く泣く従うしかありませんでした。現代社会と同じく、上司には逆らえなかったというわけです。

こうして江戸時代は平和に続いたのでした。

 

……とまあ、長々と参勤交代の説明をしてしまい失礼いたしました。日本史を猛勉強中の受験生の方などにとっては、あたり前田のクラッカーだったことでしょう。死語でしょうか。

しかし、参勤交代がどれだけ大変だったのか、あなたは本当にご存じですか?5日以内に江戸へ来いと言われ、マラソン並みに走らされるわ、刺客を差し向けられるわ、参勤交代とは本当に本当に大変で命懸けだったのです。もはやムチャぶりです。

というわけで、そんなムチャぶりを要求されてしまった小さな藩の大名と家臣たちの物語、『超特急!参勤交代』の感想に入りたいと思います。

 

そうです、忘れていたかもしれませんが、これは歴史解説ブログではありません。映画感想ブログなのです。

物語の核心に触れるようなネタバレはしておりませんので、これから観ようかな、どうしようかなという方もどうぞ安心してご覧くださいませ。

というわけでよ~うやく、本編スタートです。

 

笑って笑える楽しいコメディ!

本作のあらすじはほぼ上に書いたとおり。

時は享保20年すなわち1735年、8代将軍・徳川吉宗の治世下にて。江戸での勤めを終えて国へ帰ったばかりの佐々木蔵之介演じる湯長谷藩主・内藤政醇(ないとう まさあつ)と家臣たちは、どういうわけやら再び江戸へ参勤するようにと幕府より命じられてしまいます。しかも5日以内に。

湯長谷藩は、今でいう福島県の一部にございます。福島から徒歩で5日以内に東京へ。これを無茶といわずしてなんというのでしょう。

さあ困った。しかしやるしかない。藩で一番の知恵者である家老の相馬兼嗣(そうま かねつぐ)が知恵を絞り、抜け忍・雲隠段蔵(くもがくれ だんぞう)を用心棒として雇って、どうにかこうにか江戸へと出発する一行ですが……。

どうなる湯長谷藩!5日以内に江戸城に到着しなければ藩はお取り潰し、忠臣蔵の二の舞になりかねない!暗躍する江戸老中・松平信祝(まつだいら のぶとき)、放たれる刺客たち!深キョンとのラブロマンスもあっちゃったりして!?果たして江戸にたどり着けるのか、サライも流れる余裕ナシな超ハードマラソン参勤交代の結末は  !?

 

  なんていう、大変面白そうなストーリーなわけですが。

こちらの映画に迫力満点の剣戟、シビれる武士の生き様などを期待してはいけません。なんたってコメディ映画なのですから。言うなればなんちゃって時代劇、時代考証なんて関係ねえ、面白ければそれで良しじゃあ!です。

本作のほとんどはマラソンです。大名であるはずの政醇も家老の相馬も、そのほかの家臣たち、荒木源八郎(あらき げんぱちろう)、秋山平吾(あきやま へいご)、鈴木吉之丞(すずき よしのすけ)、増田弘忠(ますだ ひろただ)、今村清右衛門(いまむら せいえもん)の仲良しメンバーたちも、みんな走ってます。流れる汗もそのままに。

 

そんなマラソン映画が面白いのか、ただ走っているだけか。それが面白いのです。

この度の参勤交代の参加者は、なんと上に述べた政醇、相馬、家臣5人に段蔵のたった8人だけなのです。もう一人、江戸の家老・瀬川安右衛門(せがわ やすえもん)も陰で大変頑張ってくれていますが、旅に同行はしていません。

先ほども申しました通り、参勤交代は何十人何百人で行われるものです。そもそもが大名に出資させることが目的なわけですから、あまりに人数が少ないと、お上の命に逆らうたわけ者ということになってしまいます。

しかし貧乏弱小藩である湯長谷藩にはそんな資金はございません。ついこの前江戸から帰ったばかりですからね。

そんなわけで8人という人数も致し方ないわけではございますが、しょうがないねで済まないのが人の世というもの。厳しい現実にも負けず、江戸時代の孔明がごとく相馬が次々と打開策をひらめき、綱渡り状態とはいえ見事に困難を突破してゆきます。

そのひらめきがまた面白い!確かにはたから見れば立派な大名行列でも、その裏側を見るとなんとも間抜け、スカスカのハリボテなのです。

本作は、そんなギャグ要素にこそ魅力がございます。登場人物たちもみんな個性豊かで面白く、観ているうちに愛着がわいてしまうこと間違いなしです。

そんなわけで次章は湯長谷藩の参勤交代ご一行メンバーの魅力についてでございます。

 

みんないいやつ!

湯長谷藩の皆様は、お城の人々も城下の人々も、み~んないい人たちなのです。

それもこれも藩主・政醇の人の良さあってこそといいますか、農民の方々への接し方からも、ここを治める人は本当にいい人なのだということがよく伝わってきました。佐々木蔵之介が演じているというのも、まさにハマリ役だったと思います。人徳がにじみ出ておりました。

参勤交代のメンバーもみんな仲良しで、無理難題を課されているというのにキャンプか何かに来ているような、そんな明るさがあるのです。

 

個人的に好きだったのは、湯長谷の参謀こと相馬でしょうか。

彼もまたとても面白いキャラクターでした。彼を演じるは俳優の西村まさ彦、もうこの時点で相馬が魅力的な人物であることは間違いないでしょう。

彼の何が面白いって、とにかく周りの人々の彼に対する扱いがひどいのです。もはや“困ったときは相馬”がお決まりであるように、みんな窮地に立つと「相馬、知恵を出せ」と彼に迫ります。さながら「ドラえも~ん!!」です。5日以内に江戸へ来いというのも相当なムチャぶりですが、相馬への要求もなかなかに無茶でしょう。もうキレてもいいよ、あんたは十分頑張ったと言いたくなってしまいましたが、相馬にとって忍耐は知恵と同じくらい得意なことだったようです。理不尽な要求にも、彼は泣きそうになりながらもなんとか機転を利かせ、見事仲間とピンチを切り抜けるのですからすごい。それでどうにかなるんかいとツッコミをいれたくなる場面もありましたが、そのゆるさがこの映画にはとても合っていると思いました。

落ち武者になるシーンにも大変笑わせていただきましたよええ。

 

また秋山平吾役を演じた上地雄輔の役者としての顔は、今更ながら初めて拝見したのですが、彼の多才さには驚かされました。意外にも武士の役が似合うこと。おバカタレントなんて言われている彼が、冷静沈着な人物を演じるなんて。はじめこそ違和感がありましたが、観ているうちに“上地雄輔”ではなく“秋山平吾”に変わっていったのだからすごいことです。役者としての彼の今後にも注目ですね。

 

そして湯長谷藩のメンバーではありませんが、陰の立役者である瀬川安右衛門。ある意味彼が本当のMVPなのではないかと思っております。

江戸の家老であるはずの彼がどうしてそこまでしてくれるんだというほど、陰で頑張ってくれました。大名行列を作るために各地を奔走し、人を集めてくれたのです。瀬川殿の存在がなければ、今回の参勤交代が成功することはなかったでしょう。

 

チャンバラだって負けてない

『超高速!参勤交代』は時代劇らしさなど関係ねえ!な面白コメディ映画ですが、だからと言ってチャンバラシーンに見る価値なしなんてことは決してございません。

なかでも佐々木蔵之介さんは武士として話すだけでなく立ち振る舞いの演技も完璧でした。政醇はほんわかとしたお人よしに見えて、実は抜刀術の達人だったりします。これがギャップ萌えというやつでしょうか、深キョンこと深田恭子演じるツンデレお咲さんもこれでデレたといっても過言ではありません。彼女だけでなく政醇の見事な剣さばきは、この作品を観た多くの乙女たちの心を奪ったことでしょう。

 

もちろん政醇だけではありません。なんだかんだチャンバラ劇も観ていてとても楽しめました。確かに人が屋根から飛び降りたりするシーンは吊られてる感満載だったり、そんな風に人が持ち上がるかいなんてツッコミどころももちろんありましたが。でもやっぱりかっこいいのです。湯長谷藩のメンバーが魅力的なだけに、彼らが大人数を相手に切った張ったの大立ち回りをするシーンなどはやっぱり興奮しました。

 

 

そんなわけで本当に楽しいエンターテイメント映画でございました。

参勤交代の説明などをやりだしたばっかりに、今までになく長い記事になってしまいましたが、今日を頑張る受験生の方々の腹の足しにでもなればいいなあなどと思っている次第です。もっとも、わたくし日本史はからっきしなので本当に役に立つのかは疑問ですが。

しかし、時には息抜きも必要です。受験生の方はもちろん、仕事で失敗してしまった、美容室でなりたい髪型になれなかった、広瀬すずみたいなショートヘアになろうなんてそもそも骨格からして無理だった。そんなつらい思いをしたとき。『超特急!参勤交代』はきっとあなたを笑顔にしてくれるでしょう。5日以内に徒歩で福島から東京へだって行けるのです。人間その気になればなんだってできるものなのでしょう。

 

最後に。こんなつたない駆け出しブログの記事を見つけ、素晴らしき集中力と相馬のような忍耐力をもってこんなところまで読んでくださった素敵なあなた。心の底から感謝しております。あなたがとんでもないムチャぶりをされてしまった時、令和の孔明がごときひらめきで楽しく困難を乗り越えられますように。

それでは、またどこかで。