ポークのウェルダンで物語な日々

主に映画、ときどき小説、漫画、ゲームなどの感想や紹介を書いています。

小説『オカルトちゃんねる』紹介|事件はネット掲示板で起きている

どうもこんにちは、当記事へようこそ。来てくださったことに心から感謝いたします。

今回は富士見L文庫より刊行されている小説、lpp 著『オカルトちゃんねる』の感想といいますか、紹介をさせていただきたいと思います。

まだ出版されて間もないので、あまり世に知られていない作品だろうとは思うのですが、それよりもまず最初に。

 

皆さまは「小説家になろう」というサイトをご存知でしょうか?

いわゆる“なろう小説”でございます。大手のネット小説投稿サイトでして、SNSかのようにどんな方でも、もちろんあなたも、自ら生み出した小説作品を無料で投稿し、また誰かの作品を閲覧することができます。人気が出れば書籍化され本当の意味で小説家になれちゃうかもしれない、そんな夢のあるサイトなわけでございます。

さて何を隠そう、今回の『オカルトちゃんねる』も、もともとはこちらのサイトに投稿されていた作品なのです。なのでネットで検索すれば、普通に読めます。ただ、書籍化にあたって新しいエピソードが2つ追加されていたので、なろうのほうを試しに読んでさらに気になると思ったら、本の購入を検討されるといいと思います。

 

ですがしかし。

なんだなろうかよ。と落胆したそこのあなた。ちょっと待っていただきたいのです。

ええそうです、確かになろう小説といえば、異世界転生、ゲーム的世界観、チート主人公、ハーレム……などなどのオタク感強めな要素を詰め込んだ作品がクローンのように日々大量生産され溢れかえっております。実際書籍化やさらにアニメ化された作品もそれに類するものが多く、なろう系なんていうジャンルが生まれるほどです。

もちろんそういった作品の中でも本当に面白く素晴らしい名作だってあるでしょう。ですがそうしたものは本当にごくわずかだと思います。なんたって誰でも投稿できてしまうわけですから、似たような話が腐るほどあるのです。本当にすごいと思える作品を見つけるなんていうのは、まさに砂漠の中から一本の針を探すようなもの。ネットの海に埋もれる当ブログを見つけてくださったことくらいには希少なことでございましょう。

 

しかし今回の『オカルトちゃんねる』は、それらとは一味違うわけなのです。なんといっても、小説家になろうのサイトを開いてはそれらクローン作品には目もくれず、ジャンル選択でホラーにチェックを入れ作品を検索するようなホラー好きの私がおすすめしたい『オカルトちゃんねる』は、当然ホラー小説なのでございます。

もちろん、主人公が事故にあって異世界に召喚されることはありません。

舞台は現代日本、もっと言うと、とあるネット掲示板だったりします。

 

  とまあ、詳しいことは本編にてお話しいたしましょう。またも前置きが長くなってしまったわけではございますが。とにかく、『オカルトちゃんねる』の面白さのついでに、なろうにだっていい話はあるんだぞということも伝わればなと思うわけなのです。

 

さて、重大なネタバレなどはしていないので、未読の方もどうぞご安心して、むしろ未読の方にこそ読んでいただきたいと持っておりますので、どうぞこの先もお付き合いお願いいたします。

 

舞台は2ch

『オカルトちゃんねる』の面白いところ、そしてほかの小説とはだいぶ変わっているところ。それは、文章が全てスレッド形式、すなわち某ちゃんねる風に書かれているところです。

スレッドのタイトルがあって、その下に匿名の様々な人々が日頃抱えているあれこれを書き込んでいく、古き良きネットの雑談場所とでもいいましょうか。ドラマ『電車男』で有名になったアレです。怖い話が好きで、ネット上の都市伝説やら洒落怖な話やらを読みあさっていたなんていう私のような方には、お馴染みではないかと思います。

もしお馴染みでない方で怖い話が好きだというなら、どうぞネットにはとびきり怖くて無料で読めるお話がたくさん転がっておりますので、ぜひググってみてください。良いのか悪いのかホラーとは、ヘタな小説や映画よりもよっぽど怖い名作がネット上でタダで読めてしまうという不思議なジャンルなのです。

 

さて話が少しそれてしまいましたが、とにかく本作はそういったネットの掲示板形式で書かれた、まるで実際に起きていることをリアルタイムで追っているような感覚で読める小説なのです。

物語の始まりはこう。

匿名の人々がネット上で集まり、まるで天気について話すように身の毛もよだつ怖い話を書き込んでいくオカルトスレ。やたらと心霊関係に詳しい人、自称霊感ありの人、普通に怖がる人、そんな様々な人々が議論を交わす、いつもの穏やかな掲示板に何の脈絡もなく書き込まれた“たすけて”という言葉。ざわつくスレ民、そして突如現れる“ミドリ”という謎の人物の書き込み。そこから始まる、だれも予想できなかった恐ろしい出来事の連鎖とは  !?

 

  というわけで、本作には4つのエピソードが収録されているのですが、一番最初の“地蔵峠編”というお話は結構怖めだったりします。

が、しかし。ネットのホラーは怖いなんて話をした後で書くのもあれなのですが、ぶっちゃけ、本作はそんなに怖くありません。それはなぜか。

『オカルトちゃんねる』は、もちろんお化けが出てきて結構怖めな体験をするのですが、そんな人々を助けてくれる、頼もしいヒーロー的キャラクターが毎回登場するのです。というか、その2人のヒーローが主人公の物語なのです。

その名もハンドルネーム“ミドリ”と“咬みつき”。本作では彼らがエピソードごとに交互に登場して見事お化け事件を解決してくれます。2人ともそれ系の事件解決を生業としている専門家なのですが、とてもキャラが濃くて、怖さなんて吹っ飛んでしまうことでしょう。

 

しかし、スレッド形式で物語が進むということがいまいち分からない。本当に面白いのか?なんてお思いかもしれません。

ところがどっこい、スレッド形式とホラーは本当に相性がいいのです。なんといっても、今まさに起きている心霊現象を“実況”しているかのように書くことができるのですから。例えば、「今家の前に誰かがいる」という書き込みがあれば、それに対して「え、こんな時間に!?」「怖い怖い」などのレスが続くでしょう。この“レスポンス”が意外と恐怖を引き立ててくれるのです。本当に今、日本のどこかで恐ろしいことが起きていて、自分以外にもそれを見ている人がいる、そんな気がしてしまうのです。ネット上で怖い話がたくさん生まれるのもこの相性あってこそなのでしょう。

 

というわけでこうした記述形式も『オカルトちゃんねる』の魅力だったりします。普通の小説よりも読みやすいですしね。本の暑さに比べてずいぶん短い時間で読めたように思います。普段は小説を読まないという方にも、本書はおすすめなのです。

 

ホラーだけど、ちょっぴりコメディー

上でも書きましたが、本作は最初は怖いですが、それ以降は怖さもありつつクスっとしてしまうシーンも結構あって、ホラーが苦手な方でも意外と読めたりします。実際「小説家になろう」のサイトに掲載されているほうの『オカルトちゃんねる』にも、“ホラーはだめだけどこれは読める”なんていうコメントがちらほらございます。作品の一話ごとにコメントをつけ、それを見ることができるのはネット小説のいいところですね。

 

それはそうと、一体何がそんなに面白いのかと言いますと、ミドリや咬みつきはもちろん、それぞれのエピソードで恐怖体験をして掲示板に書き込むことになる、言ってしまえば“実況役”のキャラクター達も、スレで個性豊かなレスをくれる名もなき掲示板の住人達も、みんなキャラがしっかり立っていて、お化けの怖さにも負けないくらいには笑わせてくれるのです。

まずもって、咬みつきのツンデレなくして『オカルトちゃんねる』は成り立たないでしょう。彼は生まれ持ってのツンデレ、天然記念物級のツンデレなのです。ああもツンデレを地で行く人はそういないでしょう。さらに咬みつきの霊視能力は凄まじいもので、ネットの掲示板を通して、スレに誹謗中傷を書き込む人物の情報を霊視して言い当ててしまったりします。「玉ねぎ」の一言で咬みつきの悪口を書いていた人物を黙らせてしまったのは、本当に面白かったですね。一体玉ねぎにどんな秘密があったのか、それは都市伝説の真偽のように永遠の謎でしょう。

そしてミドリは、咬みつきのツンデレほどのインパクトはございませんが、ミヅチというとても素敵な蛇の神様(になるための修行中)の相方がいらっしゃいます。もともとはれっきとした神様だったようなのですが、怖がりだったり、ネット掲示板に興味津々だったり、とってもかわいい萌えキャラなのです。スレでもミヅチ様のファンはたくさんいるので、彼が多くの人に認知され再び神になる日はきっとそう遠くないことでしょう。

 

そんな個性強めの彼らが心霊現象を解決してくれるのですから、自然と面白くなってしまうのです。怖いところと言えば、実際に霊が出るという場所に彼らが到着するまででしょうか。日本中、もしかしたら海外からも書き込んでいる人がいるかもしれない掲示板ですから、今こんな恐怖体験をしているという書き込みをした人がどこに住んでいてもおかしくないのです。ミドリはネットには公表されないかたちで住所を聞き、咬みつきは霊視して、その足で現地へと向かいます。当然時間がかかってしまうので、果たして間に合うのかやきもきしてしまう場面もございました。

また、本作で起こる心霊現象は、民俗学に基づいていたり、実際に文献などに記されている怪異だったりとリアリティーがあって、そこにも怖さがあります。

まあ、続きが気になって結局は読んでしまうのですけれども。

 

自然を敬う心

『オカルトちゃんねる』が、そんじょそこらのなろう系小説とは一味違うとお伝えしたかった一番の理由が、実はこれだったりするのですが。

ミドリと咬みつきは、オカルトだけではない、我々現代人が忘れがちな大切なことを教えてくれるのです。

 

彼らには、それぞれ“人ならざるもの”である相棒が存在します。ミドリにはミヅチ様、咬みつきには、まだ具体的には判明していませんが、それはそれは強い山の神様が。そのどちらも、人間が“自然を畏れ、敬うこと”をしなければ力を発揮できない存在なのです。だからこそ、ミドリも咬みつきも初登場した時には、神を信じ自然を敬うこと、そしてお天道様に顔向けできないようなことはしないこと、そんな小学校の道徳の授業で習いそうなことを大真面目に言うのです。

たしかに、今どき自然を敬うなんて。コンクリートジャングルに囲まれた都会に生きる方はもとより、地方だって機械化は進んでいるわけで、そうそう自然に対してじっくりものを考えることなんてないでしょう。まあ、自然の恐ろしさについては、つい先日の台風で思い知ったところではありますが。しかしそれも、あくまでも自然“現象”として認識しているのであって、そこに人智を超えた超自然的な何かがあるとまでは考えないのではないでしょうか。

もちろん、科学的に考えてそんなものは存在しないと切り捨てるのは簡単です。ですが、日本人ならではの考え方である、自然の中にはたくさんの神々が宿っていて、それらを敬う心というものは。正しいか正しくないかは抜きにして、それはとても素敵な考え方ではないでしょうか。

べつに減るもんじゃありません。日々の生活に感謝して生きる。そうすれば、明日からは世界が少しだけ変わって見えるかもしれませんよ。

それに、私たちよりもはるかはるかの大昔から存在していたものたちが、ひとつまたひとつと消えてしまうというのは、やっぱり物寂しいですからね。

 

 

というわけで、『オカルトちゃんねる』でございました。

「小説家になろう」やらネット掲示板やら、馴染みのない方にはとことん馴染みのない話ばかりで、しまいには自然を敬えだのスピリチュアルな話までしてしまい、分かりにくかったという方には大変失礼いたしました。スレッド形式の説明などちゃんとできていたのか、正直自信がございません。

ですがまあ、とにかく面白いということだけでも伝わればそれでよしとしたいと思います。

 

最後に。日々大量生産されるなろう小説よりもさらに奥深くに埋もれた当記事を見つけ、こんなところまで読んでくださったことに、あふれんばかりの感謝をささげます。
それでは、またどこかで。