ポークのウェルダンで物語な日々

主に映画、ときどき小説、漫画、ゲームなどの感想や紹介を書いています。

『IT/イット“それ”が見えたら、終わり。』感想|青春とはいいもんだ

突然ですが、あなたが最も怖いと思うものは何ですか?

お化け、ケガや病気、死、通信簿、通帳の残高、注射……。

本当に怖いのは、人間の心さ……なんてかっこつけて言う人もいるかもしれません。高所恐怖症や先端恐怖症なんかもありますね。

かくいう私が一番怖いのは、やっぱり饅頭でしょうか。嘘です。

さて、どんな人にだって怖いものはあります。その人が怖いと思うものをあえて見せてくるタチの悪いアイツ……いえ“IT(それ)”の物語を鑑賞いたしました。

というわけで、『IT/イット“それ”が見えたら、終わり。』の感想をつらつらと書いてみたいと思います。

 

ですがしかし。まずはじめに申し上げねばならぬことがございます。

わたくし、ホラーが大好きです。ネットの怖い話などをよく読むのですが、そのせいか怖いもの耐性がついており、ホラー映画を観てもあまり怖いと感じません。辛い物を食べまくった結果舌が辛さに慣れてしまい、ピリ辛程度なら辛さを感じなくなってしまった辛党と近いものを感じます。ちなみにどちらかというと私は甘党です。

そういうわけで、ことホラー映画が苦手だという方に関しましては、私の言う「怖くない」を過信しすぎないようにお願いいたします。

とはいえ、『IT/イット“それ”が見えたら、終わり。』に関しては、ただ怖いというだけではない要素も含まれていますので、ホラー好き以外の方にもおすすめだったりします。

 

また物語の核心に触れるようなハードなネタバレは避けていますので、どうぞ未視聴の方も安心してご覧ください。

 

そんなこんなで長々~と前置きをいたしましたが、本題参ります。

 

ホラーというか、青春ヒューマンドラマ

いやはや、まさかホラー映画を見てこんなにも爽やかな気持ちになれるとは。劇場で観なかったことをここまで後悔したことがありましょうか。

ホラーとは名ばかり、こちらの映画には少年少女のまばゆく輝くような青春が溢れておりました。忘れていた過ぎ去りし学生時代を思い出し、あの頃の純粋だった心がヘドロのようにけがれてしまった現状に涙しかけたのは内緒です。

 

主人公と行動をともにする仲間たちは、みんな何かしらの欠点を持っています。学校ではバカにされ、自分たちのことを"ルーザーズ・クラブ"と称するほどです。

そんなすがすがしいほどに負け犬な彼らですが、みんなで団結すれば強いです。一人では弱い彼らが、寄り集まって強敵に立ち向かうのです。いじめっ子なんて目じゃありません。

そう、みんなといれば怖くない。仲間となら戦える。少年少女が大人の力を借りずに助け合って困難を乗り越え、ひとまわり成長する。そんなひと夏の物語。

『IT/イット“それ”が見えたら、終わり。』とはそんなストーリーです。彼らの“欠点”の多くが両親に関係するものであり、それを打ち破るという点も、自立や成長を表現しているのでしょう。

 

愛すべき負け犬たち

また“ルーザーズ・クラブ”のメンバーのキャラクターの良さも欠かせません。ひ弱で頼りなく見えるけれど、やるときはやる弟思いの主人公ビル。正義感が強く心優しいべバリーに、人種差別を受けながらも強く生きる頼れる男マイク。引っ込み思案だけど仲間思いの太っちょベン。あとなんか、えっと、ユダヤ教のスタンリー。

(申し訳ないことにスタンリーの活躍はびっくりするほど思い出せず、いつも保守的で仲間たちの冒険に反対するという“必要っちゃ必要だけど嫌な奴”的ポジションだったことだけが印象に残っております。しかしDVD特典の未公開シーンでは、彼がユダヤ教の儀式を強要する父親に立ち向かうシーンが描かれておりました。スタンの唯一の見せ場といっていいシーンだったというのに、カットされてしまったことが大変惜しまれます。まあだからと言って別にスタンが好きとかそういうことでもないので、個人的にはどっちでもいいです。どんまい、スタン。)

 

そして、私が個人的に好きなキャラクター、リッチーとエディ。

この二人は常に何かしらをしゃべってましたね。リッチーはシリアスな場面で不謹慎なことを言ってしまう一言多いタイプで、エディは常に空気中の細菌の数やら感染症のリスクについてばかり気にする超潔癖男子です。どちらも現実ではあまりお近づきになりたくない二人ですが、暗い展開が続く中で彼らは一種の清涼剤でありました。それになんだかんだ言いつつも仲間を助けようとする姿は、かっこいいというよりもむしろちょっぴり可愛かったです。将来が楽しみな二人ですね。

 

また日本語吹き替えでは声優の皆様がうまくそれぞれの人物をキャラ付けしていて、より彼らの個性を魅力的に感じることができました。普段は字幕一択だという方も、たまには吹替で日本の声優のすごさを肌で感じてみてもよいかもしれません。

 

とにかく“ルーザーズ・クラブ”のみんなが大好きになりました。負け犬なんかじゃない、みんなみんな一等賞です。この世に負け犬なんて存在しません。みんな違って、みんないいんです。ゆとり教育万歳です、ええ。

 

……ね、ちっともホラーじゃないでしょう?言うなれば、ホラーの皮をかぶった『スタンド・バイ・ミー』です。

 

さあ、ここで一安心した怖いもの苦手っ子の皆様。
この通りホラー要素がなくても十分面白い物語ではありますが、大丈夫。これはホラー映画です。皆様の期待する怖ぁい展開だってもちろんあります。
というわけで次章では『IT/イット“それ”が見えたら、終わり。』の怖さについて書きたいと思います。


子供たちが“怖いもの”

この映画は、いわゆるビックリ系でございました。おどろおどろしく特殊メイクされた人々が大きな音とともにバーン!と大写しになります。

しかし、登場するお化けたちは様々な姿かたちで一貫性がなく、どこか子供だましじみておりました。違うんだよなあ、ホラーってのはただ驚かしゃあいいってもんじゃないんだよ。と批評家気取りで鼻をほじほじ観ていたその時の私をどうか笑ってやってください。

登場するお化けに一貫性がなく子供だまし。これこそまさにこの映画が表現しようとしていたものだったのです。

 

ペニーワイズが標的とするのは、子供たちです。奴は子供たちが怖いと思うものを見せ、怯えているところをさらうという卑怯極まりない手を使います。

そう、一貫性がないように感じたのは子供たちそれぞれが怖いと思うものの姿をしていたからだったのです。この映画が怖がらせたかったのは批評家気取りのけがれた大人である私ではなく、きれいな心を持った子供たちだったというわけですね。

そうと分かってからは、とても楽しく観ることができました。この子はあれが嫌いだからそんな姿のお化けに出会ったのねなんていう考察要素も出てきて、『スタンド・バイ・ミー』的展開も相まって最後まで大興奮でございました。

 

さて怖さについてですが、ホラーが苦手だという方にとっては結構怖いかもしれません。子供だましとはいえ、ペニーワイズがマナーモードばりにプルプルしながら近づいてくるシーンなんかはなかなかに気持ち悪いものでした。鑑賞後のお風呂や夜中のトイレには要注意でしょう。

逆にホラー大好き、もっと私に恐怖を……!なんていう方には怖さ度は少し物足りないかもしれません。ホラーというより『スタンド・バイ・ミー』を観るつもりでいたほうがよいでしょう。

本作では、鑑賞後のホラー特有の後味の悪さというよりも、歯磨き後のお口の中のようなスッキリ感を味わうことができました。そういう意味ではどんな方にもおすすめできる映画といえます。

 

 

というわけで、『IT/イット“それ”が見えたら、終わり。』の感想でございました。
青春時代なんて黒歴史の塊だとばかり思って記憶に蓋をしておりましたが、なんだかあの頃が懐かしく思えてくるような映画でした。また戻りたいかと言ったら、そんなことはないですけど。

 

最後に、山越え谷越えこんなところまで読んでくださった奇特なあなた。誠にありがとうございました。地の果てより皆様の幸せを祈っております。

それでは、またどこかで。